江戸時代の「富くじ」と江戸っ子のビジネスアイデア

江戸時代の「富くじ」

東京都中央区日本橋にある、日銀隣の「貨幣博物館」企画展で「夢の一千両 ―お江戸の宝くじ「富」―」が開催されました。
ガイドしてくださった貨幣博物館の職員さんの話と、各種資料を元に江戸の富くじの様子と、江戸っ子が考えた派生ビジネスの様子をご紹介します。

それでは、タイムスリップしましょう。

宝くじの元祖は、江戸の富くじにあり

寿司屋
え、寿司ィ〜 江戸前寿司だよ! この新鮮な海老を見ておくれ。どうです旦那、1つ20文!

江戸の寿司(江戸の寿司は現代のおにぎりに近いビッグサイズ)

松つぁん
うーん、今は懐が厳しいってなもんで、蕎麦にしとくよ。
お梅
ちょいと松つぁん、今はじゃなくて、金がないのはいつもの事だろ! ボヤボヤしてると、いつまでも男やもめから抜けらんないよ。
松つぁん
なんだあ、宿屋のお梅か。こちとら宵越しの銭は持たねえ江戸っ子でい!
寿司屋
まあまあ旦那! ここんとこ雨続きですからね、商売あがったりでさぁ。
そういや湯島天神でまた富くじをやるってえ、1つ買ってみなんし。

江戸ガイド

◆江戸時代の庶民の金銭感覚は?

職により稼ぎに差があるのは現代と同じ。記事中の松つぁんは「士農工商(しのうこうしょう)」の「商」で、江戸の町で日用品や食べ物を売り歩く「棒手振り」(ぼてふり/魚・野菜・日用品などを、てんびん棒でかついで売り歩くこと)」だ。

  • 棒手振りの1日の稼ぎ‥‥450文程度
  • 大工の1日の稼ぎ‥‥550600文程度

(参考:栗原柳庵『文政年間漫録』・・文政年間(181830)の都市と農村の生活、逸話や話題を集めた見聞録)

〈江戸後期(文化文政)の物価の一例〉※時期的、土地柄により変動すると思われるので目安

  • そば‥‥16
  • うなぎ‥‥100文~200
  • 居酒屋の酒‥‥1830
  • 湯屋‥‥大人10文、子供6
  • 家賃‥‥一般的な間取り(台所込の四畳半の部屋)400500文程度

 天候が悪ければ売り上げに響き、仕入れ状況などにも左右されるから、一般的に慎ましい生活であったようだ。
松つぁんは女房子供がいないので養う必要がない分余裕ができるはずだが、懐が厳しいのは商売を怠けているか、酒の飲み過ぎか、または遊びが過ぎたのか‥

独身男性の多い江戸時代

江戸の町は中期までは男性人口が女性の約2倍。後期になると、町人人口での男女比は近づいてくるがまだ男性の方が多かった。
その分女性は強く、大切にされていたとも。結婚できる男は幸せと言えるが、江戸落語が伝えるように、女房には頭が上がらなかったそう。

お梅
私も富札を買ったんだよ、数字が読み上げられる瞬間は血が湧くよねぇ!
松つぁん
なんでぇ欲深め、あんなものインチキだろ。
寿司屋
ところがそうでも無いらしいですぜ。 数字の札が木箱に入れられてよーく掻き混ぜられたうえに、役人が大キリを木箱の穴の中に差し込んで札を突くんです、イカサマはできないですよ、ありゃ。
お梅
当たりが100ほども出るのがいいよねぇ! 大工の源助も、呉服屋の銀次も当たったっていうじゃないか。私も絶対当ててやるんだから〜

江戸ガイド

◆江戸の懸賞金付きクラウドファンディング? 富くじ

現代でいう「宝くじ」の元祖で、「富(とみ)」「富突(とみつき)」と呼ばれた。
江戸時代中期の1730年(京保(きょうほう)15年)、財政が逼迫した江戸幕府は、寺社に対し富くじを公認。
お寺の修繕費用の助成金を出す代わりに、富札販売の利益で修繕費用を賄わせた。
富くじたちまち人気は急上昇となり、特に谷中の感応時(かんのうじ)、目黒不動、湯島天神は「江戸の三富(えどのさんとみ)」と呼ばれ、盛んに興行が行われたそうだ。
以降全国各地の寺社にも流行が広がった。

富くじに参加するためには、まず富札を買う。富札には、一番上に“組のハンコ”(松・竹・梅など)があり、その下に手書きの文字で“数字”が書いてあった。

富札

左/江戸の富札 右/錦絵『當世名物鹿子 神社佛閣の一乃富』
日本銀行金融研究所 貨幣博物館

 富札の値段

1枚が金1分(いちぶ)程度であったと言われています。
1両=4000文 で 金1分=1/4両 だったから 富くじは11000文。
現代の感覚でいうと123万円程度で、高い。

富くじの当たり額

100番までの当たりが出て、一の富(いちのとみ)(1等/100番目の当たりくじ)の賞金としては、100両~300両などが多い。
現代の感覚では1千万~3千万程度で、このうち2割程度は胴元への奉納金として差し引かれたという。
しかし、発行された富札の6割以上売れないと興行として成り立たなかったらしい。

松つぁん
うーん、あいつら景気のいい話してやがるな。俺も一発当てて、美人の女房もらいてぇなあ。
でも富札って奴は、1000文もするってなあ、どうすっか…。
富札屋
さあさあ、割札(わりふだ)だよ!  300文で安く富札を買わないかい!  100文のもあるよ! さあ買った買った!
松つぁん
3割で富札を買えるって!? なんだ、当たりも山分けなのか。でもまあ100両当たれば3割でもでかいか…。

江戸ガイド

◆割札(わりふだ)-安い価格で小さく賭ける-

富札はとても高く、安い長屋に住むような者には手が出せなかった。そこに注目したのビジネスが、「割札」。
富札の仲買商「富札屋(とみふだや)」が作った割札で、安く購入できるアイデアが庶民にウケて多くの札が売れたという。
3分の110分の150分の1という記録もある。当選金が出れば、同じ割合で山分けとなった。

江戸の夕日

松つぁん
さて、明日も早いからな、また明日考えることにして、さっさとそばでも食って帰るか。はあ~あ、はやく美人の女房に飯作ってもらいてぇなあ。
「ズルズル、ズルズル
江戸の蕎麦

…うん、それでよぉ、銀次の奴、富夢占い(とみゆめうらない)を信じて富札を選んだら、見事当たったっていうから驚きだよなあ…。
松つぁん
おいおい! 今の話なんだって? 教えてくんねえか。
なんだよ横から急に。富夢占いのことかい? なんでも偉い占い師が書いた、当る数の秘密が書いてある書だよ。

江戸ガイド

◆富夢占い(とみゆめうらない)

いつの世も、不安を抱える人がいる限り占いは人気。
夢を見た時間帯や、その内容を基準に数字を選ぶ指南書のような書が、「富夢占い」として売られていた。

江戸の空

松つぁん
さあさあ富夢占いも読んで数字を選んで、
3割の割札も買った! 今日は富くじが行われる日、昨夜は興奮してよく眠れなかったぜ。
当たったら洒落た襦袢(じゅばん)でも買って、うなぎ食って、嫁も欲しい…。
お梅
あらあんた、結局富くじ買ったの。
松つぁん
だ、誰だおめえ、ぬ、お梅か! 急に劇画調かよ、びっくりさせんなよ!
お梅
今日は仕事も休みだから髪の結い方を変えてんだよ、もしかしたら魅力的なあたしに惚れたのかい?
松つぁん
ててててゃんでい!!

役人
さあさあ、ここに富突(とみつき)始まるで候!

「ワアワア

役人
1本目 竹の三百六十番当たり〜!

「やや! 拙者が当たりでござる!」

富突

『萬々両札のつき留』
日本銀行金融研究所 貨幣博物館

役人
突留(つきどめ)‥松の百八十二番大当たり〜!!

江戸ガイド

◆実際の富突(とみつき)の様子

富札に書いてあるものと同じ組と数字が記された小さな木札が箱の中に入れられ、上部の穴から大キリで突いて当たり札を決めてゆく。
富突は100回繰り返され、1〜100番目まで当選者が出る。100番目が今でいう1等。一の富(いちのとみ)。

江戸の星空

松つぁん
トボトボ…
お梅
今日は残念だったねえ、100番までカスリもしなかったよ。
松つぁん
ちくしょう…  はあ、ん? おめえ何読んでんだよ。
お梅
当たり札は賞金引換券と交換するらしいけど、引換券には面白い合言葉が書かれてるんだよ。
その文句を集めた本「あがり札文句集(あがりふだもんくしゅう)」さ。
“これ小判 たった一晩 いてくんろ”だってさ、あはは面白い合言葉だねぇ。
松つぁん
そんなくだらないもん買ってんなよ!
お梅
私に当たらないでくれよ、人が慰めようと明るくふるまったらさ…。
松つぁん
お、おい泣くなよ! 泣くんじゃねえ。
お梅
ふーん、嘘泣きだよ!
松つぁん
てててててゃんでい!!!

江戸ガイド

◆あがり札文句集(あがりふだもんくしゅう)

当選者は控えの紙をもらい、賞金を受け取る際に照合した。この控えの紙には合言葉的な意味合いで、洒落言葉や、俳句、絵などが描かれていた。
何でも商売のタネにする江戸の人、この言葉を集めて一冊の本にして、縁起物または娯楽の読み物として売った。
「富あがり文句(とみあがりもんく)」など様々な呼び名があるそう。

富くじは江戸っ子のビジネス魂を加速させた

世の中が安定すれば消費生活も盛んになり、多くの富を夢見て一攫千金を狙う人間が増えます。
政府公認の大盛況の宝くじ「富くじ」から、多くの商売が発生していますね。
(実際にはこれ以外にも、非合法の陰富(かげとみ)や、様々な博打の発展に火が着いています。)
現代のようにインターネットもありませんが、たくましい江戸っ子のビジネス魂を垣間見ることができます。

また、「貨幣博物館」では、お金の歴史や役割などについて、その時代の本物の資料と共に
専門的かつ分かりやすく展示されています。
企画展では職員さんの丁寧な解説があったり、その時だけの貴重な資料を見ることができますよ。
お金に関する知識を得たい場合は、ぜひ1度訪れることをおすすめします。

参考文献

  • 大江戸探検隊『大江戸暮らし』PHP研究所
  • 花咲一男『大江戸暮ものしり図鑑』主婦と生活社

参考サイト

 

 

貨幣博物館

日本銀行金融研究所 貨幣博物館
〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町1-3-1(日本銀行分館内)
https://www.imes.boj.or.jp/cm/


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